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仙台高等裁判所 昭和45年(行コ)9号 判決

控訴人

本吉町立津谷小学校山田分校存置対策委員会

被控訴人

本吉町教育委員会

代理人

及川憲一郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一まず控訴人たる本吉町立津谷小学校山田分校存置対策委員会(以下単に控訴人委員会という。)が、かりに控訴人主張の如く民訴法四六条にいう法人に非ざる社団に該当するものであるとしても、本件訴の提起につき当事者適格(原告適格)を有しない限り本訴は不適法たるを免れないので以下当事者適格の有無につき検討する。控訴人は、右適格の理由づけとして、

(1)  控訴人委員会は、学校教育法二二条によりその子女を小学校に就学させる義務を負う保護者によつて構成されている、(2) 右構成員はいずれも現在もしくは将来保護者としてその子女を小学校に就学させる権利を有するところ、本件処分によりその子女は昭和四五年四月以降津谷小学校本校に通学せざるをえないことになるが、その通学は山田分校への通学にくらべて著しく困難かつ危険であつて、このような結果を招来する本件処分は右構成員の権利を侵害するものである、(3) 控訴人委員会は、右構成員に対する右権利の侵害を排除し、その共同の利益を守るために設立されたものである、と主張する。

ところで、憲法二六条、教育基本法三条、四条、学校教育法二二条は、すべての国民に対しひとしく教育を受ける権利を保障するとともに、これを実効あらしめるため、保護者に対しその保護する子女を小学校等へ就学させるべく義務づけ、他方においてこれに対応して地方自治法二条三項五号、学校教育法二条、二九条、四〇条により市町村に対して小学校等を設置する義務を課している。このように小学校という教育施設(営造物)の設置が地方公共団体の義務とされ、他方保護者に対して就学の強制すなわち特定の営造物の利用の強制がなされている法意から考えると、保護者は、その保護する子女を就学させる義務を負うと同時に、その反面において特定の小学校に子女を就学させるため当該営造物を利用する、一種の法律上保護されるべき利益(以下法的利益という。)を有しているものと解することができる。従つて、市町村の設置する小学校もしくは分校につき廃止処分がなされ、そのために子女の通学が著しく困難もしくは危険であつて、その就学が事実上不可能となるような状態が招来される場合には、たとえ右処分が特定の相手方のない処分であるとしても、保護者は右に述べた法的利益の侵害を理由として、右処分の効力を争うについて法律上の利益を有するものと解するのが相当である。

ひるがえつて右に述べた「保護者」の意義、範囲について考えるに、学校教育法二二条一項は「子女に対して親権を行う者、親権を行う者のないときは、後見人」を保護者とし、かつ子女が満六才に達した日の翌日以後における最初の学年の初から、満一二才に達した日の属する学年の終りまで(この期間を学齢期間という。)、小学校に就学させる義務を負う旨定めていることならびに同法二三条、二五条、二七条の各規定の文言からみると、(1)具体的に就学義務を負うべきものとされる保護者は、その子女に対し親権または後見を行う者で、右学齢期間にある子女を有する者のみに限られること、(2)しかも右にいう保護者とは、現に親権または後見を行う実親、親権または後見人という住民個人(但し、児童福祉法四七条の施設の長はその例外である。)を指すものであることが明らかである(控訴人は、この点につき将来において就学義務を負う者をも含むと主張するけれども、前記諸規定の文言にてらすとき到底採用しえない独自の見解である。)。

右によれば、その子女を就学させて小学校を利用する法的利益を享受しうる主体は、前記(1)(2)の資格を具備する者でなければならないところ、〈証拠略〉控訴人委員会は、本件処分に反対し、山田分校存置のための活動をするため山田分校学区内の住民から選出された四名によつて構成されている団体であつて、団体それ自体前記(1)(2)の資格を具備せず、従つて右法的利益亨受の主体たりえないものであることが明らかであり、しかも控訴人委員会の構成員が前記法的利益を有するとしても(控訴人は、この点につき控訴人委員会は、構成員全員が右法的利益を有することを前提とし、その共同の利益を守ることを目的とする旨主張するけれども、〈証拠略〉前記構成員四名のうち前記(1)(2)の資格を具備しているのは佐々木徹のみであることが認められるから、右主張は採用の限りでない。)、控訴人委員会が右各個人の前記法的利益につき法律上管理処分権を有するとか、控訴人委員会が団体として構成員個人のなすべき本件処分の効力を争う訴訟につき任意的訴訟担当が認められるとする法律上の根拠はあたらない。

してみると、控訴人委員会は、本件処分の不存在、無効の確認もしくはその取消を求めるにつき団体固有の法律上の利益を有しないものであり、従つて本件訴について原告適格を欠くものといわなければならない。

二以上の次第で、本件訴はその余の点について判断するまでもなく、右の理由だけで却下を免れないものであり、結論において同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから棄却することとし、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(松本晃平 伊藤和男 佐々木泉)

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